ケイネスはいつも通り、とある喫茶店のオープンカフェにて昼食を摂っていた。
だが、今日はいつもと違って養子の息子が同席していた。
父親が出来たのが余程嬉しいのだろう、と一時も離れたがらない息子をつれ回している。父親として大いに振る舞うためだ。
とは言え、今まで子供の子守りさえもまともにしたことのないケイネスが、ましてや大学生の男性を引き取るのは苦難だった。
だが養子—ディルムッド—は何一つ汚点のない子だったので、通常の苦悩の2割り程度しか感じていないのだが。
「ここのサンドはやはり絶品ですね!」
ディルムッドが喜びの声をケイネスに向ける。
「そうか。それは良かった。」
と、アールグレイを啜りながら答える。
「先生は食べないんですか?」
先生と呼ばれた父は眉を潜める。
「だから・・・私の事は先生と呼ぶな。」
「では何と。」
「・・・・・・お父さん?」
悩んでから最も適切な答えを述べた。
「お父さん。」
「いや、やめろ。」
心の奥で何かむず痒いものがケイネスを擽った。次第に耳は赤く染まり、赤面した。
—何がしたかったんだ、私は・・・
「やぁ、久しぶり。」
後ろから声がした。慌てて振り返ってみると、見馴れた顔が笑いかけていた。
思わず席を立ち上がり、呼んだ。
「雁夜!」
「おっす。あ、そっちが噂の息子くん?」
「あ、どうも・・・」
銀髪の男性を見た直後の義父の反応は明らかに喜んでいた。喜ぶ父に喜ぶべきか、喜ばれた相手に嫉妬するべきか。
「これはディルムッドだ。よろしくやってくれ。そんなことよりも、」
—そんなこと!?
と、ディルムッドは驚いた。
「なんでここに?取材かなんかで来たのか?というか、ここもやっと有名に?」
「まてまて、こんな良い店他人に教えられるかよ!」
と、大声で言うと奥から主人のような男が「いっそのこと教えろよ!」と笑った。
「ははっ! まぁ、そんなことだよ。つかケイネスは何で?」
するとケイネスは息子の方に親指を立てた。
「こいつと昼飯だ。」
「あー。 なぁる。」
と、こんな具合で二人は意気投合していた。と、言うか寧ろ、親友のようになっていた。ディルムッドはこんなに生き生きとしたケイネスは見たことがない。
—仲間といると、こんな感じなのか・・・
それと比べて、自分が居るときには笑顔を見せてくれない。ディルムッドは不毛な気持ちを押さえるので精一杯だった。
「同僚と待ち合わせしてんだけど、あいつまだ来てないな・・・」
と雁夜が辺りを見渡す。
「へー 」
ケイネスは然程興味を示さない。
と、急に雁夜がある一方向をしかめっ面で見つめた。大きく両腕を左右に降り、誰かに合図を送る。
「おい、こっちだ、バカ。」
コツコツと歩いてくる足音は奇妙なことに段々と遠くなっていっている様に聞こえた。禁煙席に来るから、手元の携帯用灰皿で煙草の煙を消す。近づいてくる黒い男は右手を掲げ、挨拶を交わす。
「やぁ」
顔立ちからはあまり想像できなかった低い声で一言発する。
そこで要約視界に入った黒ずくめの男に対して、ケイネスが小刻みに震えていることがわかった。
「・・・せんせ—」
隣のデイルムッドがそっと話し掛けても返事はない。ケイネスは完全に凍りついていた。
「切嗣・・・?」
「久しぶり、ケイネス。」
そこで二人は再会した。