「なんで、ここに?」
混乱するケイネス。
それにまた混乱するデイルムッド。
そして三人の顔を見合わせて混乱する雁夜。
一喫茶店ではあり得ないコンビネーション。だがそれは現実だ。
「お、お知り合いですか?」
と、我慢できずに静寂を切り開いたのはこの状況に一番不釣り合いなデイルムッドだった。
突破された暗黙に続き、ケイネスは口を開く。
「あ、ぁ・・・ 幼少期の友人だ。」
歯切れの悪い解答を不審に思いながら了解する。
「そうそう、って言うけど中学卒業まで一緒だったし、幼少期の友人とは言えないよね〜 あの時はすでに大人七割って感じだったし。」
と、ケイネスの説明をまたややこしく言い直す。
「つまりは、竹馬の友、ってことだろ?」
雁夜が一刀両断する。
二人はその言葉を肯定した。切嗣は雁夜を見ながら、そうそうその通り流石雁夜くん、だとかいう。ケイネスはややぎこちなく頭を上下に降る。目線は切嗣にある。
「しかし、本当に変わってないな、お前は、」
ケイネスが始める。落ち着き始めた四者は各々席につき、やっとついた珈琲に口を付けていた。
ただ雁夜はドクターズストップが懸かっているためにケイネスと同じ紅茶だ。
「・・・、どっちが?」
真剣に問われた雁夜の質問。
確かに久々の再会を果たしたのは、二人、いるのだ。だが、そんなのは前ほどの会話で解ることだ。
「切嗣、だよ。」
やや呆れ気味に紡がれた言葉を雁夜は、あぁ、と受け流す。
「そうかい?」
「そうだよ、」
不思議そうに考える切嗣にケイネスは小さく吐き捨てる。
「—あの時と何一つ変わっちゃいない・・・」
「いや、僕だって変わったところあるから」
と弁解するが届かず。反撃にと渾身の言い訳を言う。
「かわいい妻とかわいい子に囲まれて幸せに暮らしているから!」
瞬間、ケイネスの表情が強張った。
—妻子、が、いるのか・・・
いや、それは当然とも言える。既に二人の年齢は妻子が居ても当然の年齢に達している。つまり、当たり前、なのだ。
寧ろ新婚のケイネスの方がおかしいぐらいだ。
「ふん、私にだって、妻子居るし!」
強がって口調が強め。
「えっ 君に妻子・・・ まさか、この子?」
と驚いた顔をした切嗣はデイルムッドを指す。
「どうも。」
控えめの挨拶。切嗣は驚愕し困惑した。
「嘘だ!こんな大きな息子が居るものか!」
「ばぁか!要るんだよ!」
「信じない!こんな・・・」
「息子が大学生で何が悪い?」
「だって早い僕でさえ娘は小学生だぞ!」
「早いって・・・」
「僕と居た時には既に妊娠・・・?!」
「なっ、は、バカ!ソラウにそんなこと、」
「この変態!」
「お前の方こそ!」
二人の言い争いは続いた。まるで中学生の口喧嘩の様に下品な語句を並べ会い、お互いを罵った。
数秒後、お互い言い尽きた二人は行きを切らしながら笑う。
「ほんと、変わらないな!」
「お前の方こそ変わらんな!」
二人の会話から置いて行けぼりになってしまったデイルムッドと雁夜。雁夜は何かに諦めがついたのか、二人の会話を肴にしながら紅茶を啜った。デイルムッドは、必死に二人の会話を目で追っていた。
笑いも治まり、落ち着いた頃。雁夜は仕事だと言って軽く挨拶をし、切嗣を連れて帰った。
賑やかだった席に落ち着きが戻り、二人は無言で残りをたいらげる。
「忙しい人でしたね。」
「あぁ、全くだ。」
そうこうしている間に時は既に昼の終わりを告げていた。
一方、雁夜と切嗣はというと。
車に乗り込み次なる仕事を終える作業に入っていた。
雁夜が口を開ける。
「で、実際は?」
「前からあそこに出入りしていたことは知っていた。」
運転席からやっぱりと言う声が聞こえる。
「偶然を装い無防備な相手に警戒心を持たせず接近する、確信犯!!」
「まぁね。」
気さくに肯定されて、呆れ果てた。
「なら自分だけで行けよ。おれをダシにするな」
「そう言うけどねー・・・」
相手まで自分に未だに思い入れがあるとは限らないでしょう?と、悲しげに付け足した。
雁夜はとりあえず、うん、と肯定する他なかった。
「それに、あの事はまだ忘れちゃダメだからさ・・・」
切嗣は意味ありげに語尾を鼻唄混じりに上げた。意味のわからない雁夜は頭上にハテナを浮かばせながらサイドブレーキを引き発進した。
「ダメなんだ。」
終。