2016/11/24

気づいたら吸血鬼になってた話





登場人物


主人公:柳小路 獅騎(やなぎこうじ しき)僕
ヒロイン:宮城 柚子(みやぎ ゆずこ)私
   (スリヴァン・アーテュール・ラ・エマ)

学校の人たち
保険医:吉永 友恵(よしなが ともえ)私
命恩人:天宮 宗之介(あまみや そうのすけ)私
クラスメイト:♀九条 雫(くじょう しずく)
     ♂小林 彰二(こばやし えいじ)
     ♀佐々木 岬(ささき さき)
     ♂峰岸 幸人(みねぎし ゆきと)
     ♀川原 郁(かわはら みやこ)
     ♂寺本 聡(てらもと さとし) 





◇プロローグ◇




僕は嫌気がさした。
家の事も、学校の事も、友達も、クラスメイトも、何もかもに嫌気がさした。
近くにあった廃ビルの屋上のドアが開いているので、そこで飛び降り自殺でもしようと思った。だが入ったら先客がいた。敗れたフェンスの前で仁王立ちするのは艶やかな黒い髪を風になびかせた女。服装からしてOL。
「君も?」
彼女は手に持っていた缶ビールをすすりながら訪ねる。
「まぁ、はい。」
「へーなら話は早いね。最近の若い子は知らないのかな?」
女は床に捨ててあった、恐らくフェンスを壊したのに使用されたと考えられるペンチも僕に向けた。
「何をしに来た?」
「何…ちょっと人生に嫌気がさして…自殺しようかと…」
「むっ!自殺だと?!ここでか?」
頭を縦に振ったら女はニヒルな笑いを浮かべた。
「何がそんなに厭なのか話してごらん」
「………」
僕は戸惑ったが、もう死ぬのだ。そんな迷いは不必要だ。そう思い、今まであったこと、自分の人生の無価値さを全て洗いざらい吐いた。
久しぶりに長く喋ったのか、喉が痛み、息が切れる。
喋り疲れた僕を見て女は呆れた声でいう。
「その程度で人生を終わらせるのか?家族と仲が悪い?学校に居場所がない?友人ができない?クラスメイトが怖い?イジメられている?お前の人生は実に中身がないな。その程度で死んでいたら、私なんぞ何百個命があっても死に足りないぞ!よいか?生きとし生けるもの全てに生きている意味などない。それは己が勝手に見出すものだ。お前はまだ若い。これから生きる理由を見つけるがいい。」
僕はがっかりした。
この女も他の人と同じく、僕の事を全く理解していない。
自殺を止めることが正義か何かと勘違いしている。僕は死にたいんだ。
たった一つの希望も夢も叶えさせてくれない大人の一人と同じだと思った。
「…聞いてくださりありがとうございます。それでは僕はこれで死にー」
「待たれよ少年」
女は僕の襟首を思いっきり引っ張り、うなじに歯を突き付けてきた。
「いっっ???!!!」
「ド阿呆め。私はこれから生きる理由を見つけろと言ったのだ。」
「な、なにを…??」
噛まれたうなじに手を当てると、血は出ていないようだった。だが触ってわかるように、歯形がくっきりとついていた。
「命令だ。生きる理由を探すのだ。」
そして女は僕の襟首を持ったまま、穴の開いたフェンスの間に思いっきり投げた。
身体は空中に放り投げられ、約13階建てのビルの屋上から急降下する。
風が顔に当たり、体に触れ、怖くてたまらなかった。
だがこれは僕が望んだこと。これから死ぬと思えば恐ろしくもない。
……はずだ…。
「うわああああああああ!!!!!」
僕は自然と叫んでいた。涙も出ていた。情けなく命乞いをしていた。
自殺をする精神力なんて僕にはなかった。
ただの臆病で卑屈な高校生な僕はその日ぺしゃりと音を立ててアスファルトに激突した。

見たこともない大量の血が僕から流れ出ていく。
手足は折れて使い物にならない。内臓もきっともうぐしゃぐしゃだ。
あと数秒で僕は死ぬんだろう。そう思うと先ほどまであった恐怖が和らぎ、代わりに後悔が押し寄せてくる。
ここで死ぬには勿体なかったかもしれない。

「そうだろう?勿体ないのだよ、君!」
女の声が頭の中で響く。
「まだ青春を味わっていない間に死ぬなんて、この上ない愚行だ!!」
女は笑いながら言う。
「なので君には新しい人生を与えよう!青春を味わうために、かっこいい容姿!モテる性格!そしてイケメンならではの高い身体能力!」
女の声が遠ざかる。
「これらをもって君は生きる理由を探すんだ。」
そして僕の意識もそこで途切れる。









続きます~