2013/11/25

番外編!

「なんでだよ・・・」
真っ白のマフラーを首に巻き、真っ黒のロングコートを海風に吹かせる。真っ青な顔を空に向け。この男、ぜはんぐ・ライトは、溜息を大きくもらす。
『寒』
と書いてあるスケッチブックの一枚をぜはんぐに見せる白い男は、黒い長マフラーを鼻の上まであげて、白いトレンチコートに身を縮こまらせる。
「寒いって・・・ おいおい。そりゃこっちのセリフだぜ・・・。」
『同じ気持ち』
「・・・なんだって、おれが・・・おれがこんな目に・・・」
『必然。 ごめんって。』
「本当だよ・・・。」
二人は今、崖に居る。
海が290度見渡せる崖に居る。後ろを振り返れば大勢の大男たちが手に銃を構えている。
『どうする?』
「おいおい・・・決まってるだろう。」
頭上にハテナを浮かべる相棒に引きつった笑顔を見せる。
手汗でしっとりなった手でダッフルの背中を抱きしめる。
「覚えておけ!!!この森見臣藏は容易くは死なない!!!!」
そして後ろに一歩、跳躍した。
1mぐらい後ろに飛んだところで、落ちた。
コツコツの岩に波風が強く当たるところに、落ちた。
ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる

ピーーーーガガッピッ!
「森見臣藏とその部下が自殺しました。」
『自殺ぅ?』
「えぇ、三角崖から落下していきました。」
『死体は?』
「確認できません。・・・この距離です。万が一にも助かりはしませんよ。」
『それもそうだな。よし、戻ってこい。』
「はっ」
ピッ
小型トンシーバーをポケットに仕舞い、トレンチコートの首元と胸元をキレイに直した。
後ろに控えている黒い大男たちに指で撤退を合図する。
それに従い、一人また一人と無音で立ち去ってゆく。
最後に残った自身の腕時計を見て、時間を確かめる。
「いけませんね・・・あと2時間室見様のティタイムです。急いで帰らないと。」
そんな独り言をつぶやきながら、男―喜田太郎は眼鏡を上げた。





ザッパーーーーン!!!
大きな波音と共に目が覚めた場所は、見たこともない平らな岩肌の上だった。
「?」
『起きたか、ぜはんぐくん』
「モリミ!って・・・なんだこれ」
『見て分からないか?ぼくは削った。素晴らしいだろう。芸術品とも言える!』
二人が乗っていたのは直径30mはあるだろう円型に平な岩の上だった。陸に付いているにも関わらず何故か岩の上に居るままだった。
「お前って・・・たまにわかんねぇことするよな。」
『?』
「なんでハテナなんだよ。 ほら、もう行くぞ」
コクン
二人は円形に切られた滑らかな岩の上を陸に向かって歩き出した。



「ようこそ!ようこそ、我が社へ!!」
晴れやかな声を上げる男が大勢の前で腕を広げて自己をアピールしていた。
クロックタイムズ社の会場ホールには大勢の大企業の社員、新卒の新社会人、そして見知った者から見知らぬ者までが居る。そこで大声を上げたのがこの男。ハッハッハッ、と高笑いしながらグラスのワインをいっきに飲み干す。
「室見副社長、今日は一段とご機嫌ですね。」
一人の若い男が近づくと、大声を張っていた室見がニコニコしながら答える。
「あぁ、キミキミ。僕の名前を間違えないでくれないかな?」
「えっ?」
「僕はもう副社長ではない。今日から、社長さ」
あたりがざわめいた。つい今朝まで副社長だった男が何故か今社長だと皆に迷言している。と、そこに雨水で濡れたトレンチコートを払っている喜田がやってきた。
「室見社長、只今帰還しました。」
「おぉ、ご苦労だったな、喜田くん。」
ざわめきが一瞬にして消えた。
生真面目な表情を絶対に崩さない喜田が室見を社長と呼べば、そうなのだろう。
皆が胸の中にモヤを残したまま納得した。
納得するしかなかった。
「じゃ、じゃあ・・・社長は、あ、いえ、前社長は?」
「あぁ。彼ね。うんうん。死んだよ。」
「?!」
「三角崖から落ちて、死んだよ・・・ッ!!」
悦の入った笑顔で笑う。笑う。笑う。笑う。笑。笑。笑。騒然とするホールに一際大きい声がこだまする。笑う。笑う。
「森見は・・・森見社長ってやつは!!自分から崖に落ちて死んだそうだ!!!!!」

「それは、辛いな。」

沈黙した。広いホールから、音という音が消えた。ざわめきもできない程、全てのタイミングに置いて丁度が良い。切るには適当な瞬間だった。
「社長が死んじゃあ会社経営も大変だなあ なぁ、モリミ」
こくん
となりのダッフルコートの男が頷き、ホールが一瞬にしてざわめく。「嘘か」と言う単語が飛び交うなか、森見はしっかりと笑っていた男を見据える。
スケッチブックのページを二枚破り、マジックで文字を書く。
『今日限り、君を解雇します。今までご苦労様でした。だが、我が社にはより有能な人材がたくさんいる。君をほかの会社に紹介する。』
それを見た人は、紙から近い場所を初め、全員が息を飲んだ。
「なっ・・・?!」
抗議しようとする室見に対し、もう一枚の紙をぺらり、と見せる。
『これは社長命令だ。 絶対的命令だ。拒否権なんて存在しない。する訳がない。』
そして首を傾げた。
「当たり前だろう?」
森見のとなりで全てを見ていたぜはんぐがポケットから小石を取り出した。
「・・・そして消えるのはお前もだ、キダァぁアアああああ!!!!」
小石を側近の喜田に向けて力いっぱい投げる。右に避けた刹那に、ヒュンッ、と音を立てながら頬をかすめ小さな傷跡を残す。喜田とぜはんぐが睨み合う。
「室見様、ご命令を。」
「・・・」
「室見様。」
「・・・・ッ」
「室見様!」
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
頭を抱えながらホールから走り逃げようとする。人を駆け、押しのけて、やっと扉までたどり着きドアに手をかけようとした瞬間、気づかない内に森見が目の前に居た。
あまりの近距離。
何故気づかなかった。
いや、気づかないわけがない。
「も・・・りみ・・・しゃ・・ちょ・・・・う・・・・・」
全身のあらゆる毛根から汗が吹き出る。指から滴る冷や汗を一瞥し、森見は自身よりも数センチ背の高い室見に軽蔑の視線を送った。
『ここまで失望させられると思わなかったよ。 もう少し楽しめると思ったのに。』
スケッチブックを見せ、次の瞬間、室見は膝を付き、両手を付き、床に土下座していた。
「ばっ 化け物ぉ・・・ッ!!!」
小さく吐かれた負け犬の遠吠えは森見の耳に入った。
森見はそれを聞いて笑顔で室見と同じ位置までしゃがんだ。
目は真剣で、口元は笑っていて、森見は室見を向き静かに口を動かした。



室見は恐ろしくなって力の抜けた腰から固く閉めた奥歯までガタガタと震え始めた。
主の変化に気づき、やっと喜田がぜはんぐから離れ室見の近くへ行った。
やっと、と溜息を吐きながらやってきたぜはんぐに森見が手を振る。
「化け物なのは、仕方がねぇだろう。そう生まれてきたんだ。」

『ぼく達はばけものだけど、君よりも正しいんだ。』

森見は最後にこう書き残し会場をあとにした。


後日会社内でこの話が話題となり、皆は疑問を浮かべた。

何故三角崖で自殺したと思ったのか。
何故森見社長はドア付近に突然居たのか。
何故森見社長は見知らぬ少年と一緒だったのか。
そして、全てが始まる少し前まで雨が降っていたのに何故森見社長と見知らぬ少年は、濡れていなかったのか。


それの謎が解けるのは一生ないが、会社はその後大成を成し遂げ、世界ランクトップ20にまで登った。






終わり



今回は長くてサーセンです。
変なことしながら書いてたので内容がツギハギですサーセン・・・・。