2013/04/01

青空の下で

「・・・」
美しい青で埋め尽くされた視界。磯の香りが妙に臭い。もともと魚は好きではなかった。「まぁ、好き嫌い言ってたらばあちゃんに怒られるがな。」
独り言を呟きながら海岸添えを歩く。
左腕の断面をそっと指で撫でる。この三日前まで、自身が死の淵にいたと思うと改めて思うと、なんとも複雑な気持ちになる。
遠くで自分の渾名を呼ぶ声がする。
二回繰り返させる。
いや、4回なのかも知れない。
何せ渾名自体が繰り返されたモノだからだ。
「いまいくよ、スージー。」
オレはオレにしては気のない返事をして自分の居場所に帰っていった。

ジョジョ。

そう、呼ばれたからだ。












実に2日ぶりの肉が晩飯に用意された。
目を輝かせながら、なぜ、と聞いたら、飛びきりの笑顔を返された。
「あなた、お肉好きでしよ?」
こいつと将来を誓い合って良かった。
「そ・れ・に〜」
浮かれた足でフラリフラリと回り出す。
「明日は式の日でしょ?」
あぁ、そういえば。
目の前の女、スージーQと婚約していたことをてっきり忘れていた。自身の事ばかりを考えていたらしい。改めて想像してみる。彼女の花嫁姿を。
「そりゃあ、楽しみだがよ〜 お前本当に良いのかよ?」
「ん?何が?」
「だから・・・その・・・オレと、結婚なんかして・・・」
「は?」
「だって!一生に一回だぞ?!もう彼氏も、女みたいなことも出来なくなって、オレとずっと一緒で、主婦になるんだぜ!!」
「・・・」
「ばあちゃんは楽しいこととか言ってるが、スピードワゴンのおっさんは未婚だが、その、・・・。 オレで良かったわけ?」
スージーQは見開いた目が閉じず、開いたら口が閉じず、ぽかん、とこちらをみた。
まるでジョセフがヒンドゥー語を喋っているみたいに。
「なあに言ってんのお〜」
バシン、と背中を叩かれると、爆笑した彼女が続いて話す。
「ジョジョじゃなきやダメだからよ〜 そんなの決まってるでしょ?」
微かに震えた声が耳に伝わった。
「スージー・・・」
スージーQはジョセフが海に落下し、漁業の網に偶然的に掛かったときから、ずっと看病を続けていた。3日あまりも目を冷まさなかったジョセフを看病し続け、愛する人が起きることを永遠と独りぼっちで祈っていた。
「うん。オレも、お前じゃなきゃダメ。」
スージーQの手を握り、精一杯の笑顔。
あぁ、そうだ。彼女じゃなきゃいけない。

翌日、丘の麓にある小さな協会で式をあげたカップルがいたらしい。
新郎は真っ白のタクシードを誓いが終わるなり泥んこまみれにしてしまい、新婦はそれを真似るように二人で海岸の方に走り去りながら、シーザー結婚したぜーオレ幸せー、あたしもー、と言って去ったらしい。
まぁ、ただの噂だが。






「オレ達、これからヴェネツェラに新婚旅行〜」
海を目の前にポロシャツの左をハタハタと泳がせる。右手には大きなトランク。
「オレなあ、もうちょっとでリサリサとか、師範代とかに会いに行くんだわあ〜 あ、リサリサと言えば。実はああ見えて50歳のババアだったんだぜ?びっくりだろ〜 それともう一つびっくりなことが。まあ、これはお前に会ってからな。」
右手をトランクから離し、拳を海へと振るう。
「うまくお前を見つけてくれてると良いな。ま、リサリサならそーゆーのちゃっかりしてそうだから心配いらないな。」
手を下ろしてトランクを持ち上げ、海にさよならを言う。
「じゃあな、シーザー。また。」




「おう、二度とくんな!スカタン!」




そう、言われた気がして一回振り返ってみた。だが現実は当たり前で、そこには青い空と、キラキラの海しかなくて。当然シーザーもいなくて。ただ、ウミネコがバカみたいに鳴いてるだけで。
いつの間にか自分も泣いていた。





「ジョジョオ!!!」
「ジョジョ〜!!!」
「ジョジョ・・・!」
皆が自分を、まるで幽霊を見たかのように呼ぶ。驚き、感激、泪涙。皆の向いている方は自分だが、見ていた方は
「ここにジョセフ・ジョースター眠るぅううう!!???」
バッと後ろに立っている自分の奥さんの方を見る。スージーQは逃げながらごめんなさいと叫ぶ。この野郎ーッ!!!
まぁ、生きていたわけだが。
「・・・コレ、身体の入ってない棺桶なの?」
「うーん、身体っていうか・・・遺体じゃないかしら?」
「そうじゃなくて!」
スージーQのオドケにツッコんでから。リサリサによれば、切断された左腕だけはカスだが見つかったので一応それを入れたらしい。亡骸腕一本の遺体。
ジョセフは考える。
あぁ、なるほど。


じゃ、シーザーとお揃いかぁ・・・。


シーザーの遺体は部分的に発見されたらしいが、全身が見つかったわけではない。未だ右腕しか発見されていないらしい。
それ以外はおおよそ何処にあるのかも分からないほどバラバラになってしまっているらしい。だから埋葬するにも、人一人分の棺に腕一本になってしまう。
自分は右。シーザーは左。
なんかおもしろかった。

「ジョジョ。」
「ん〜?」
スピードワゴンが苦笑いしながら墓を見下ろす。
「自分の墓の感想はどうじゃ?」
「最悪〜 まだ生きてんのに死人扱い!しかも1週間も!ふざけんなよー!」
「はっはっは!!まぁまぁ、わしらは本当にお前が死んだと思ってたんだぞ?  よく、帰ってきてくれたなジョジョ。」
「じいちゃん・・・」
「しかし、嫁さんまで持ってくるなんて!予想外すぎて言葉が出んよ!!!」
「それは良いでしょ、もう・・・」
「あっはははは!!!」
こんな調子で続けられた会話。


「オレの墓、こんまま残しといてくんない?」


スピードワゴンは驚いたように目をまん丸く開いた。予想していたいつものジョセフならこんなことは言わない。むしろ、縁起が悪い、等と言って即座に取り壊していただろうから。
「・・・何かあったのか?」
物珍しそうにじろじろとジョセフの表情を伺う。
「ん〜?何も。」
ジョセフは笑いながら返す。










時間がたち、
時代が新しくなり、
娘。
孫。
家族が増えた。



新たな目的が出来き、
新たな旅に出て、




だから、友の叶えられなかった夢を自分が実現しようと思って。
「ねえ、」
「はい?」
声をかけたのは一人の日本人女性。
「いやぁ〜漢字は得意なんだけどさ。よ〜くはわからなくて・・・ 空港ってどっちかね?」
くすりと笑い、可憐に右手を上げて指差した。
「あちらですよ。」
「きみ、」




シーザー。
お前に言わせれば大きなお世話かもしれないが、これはお前の分だ。
息子にはお前と同じ意思を継いで貰った。

誰にも負けない。
何にも壊されない。
キラキラ美しい。
そんな魂を。







終わり。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
長かった。
そしてまさかの仗助オチ。
あーん、シーザーちゃんが死んだぁ!
・・・原作でも泣いた。


余談と解説。
自分の幸せと家族は見つけたけど、心残りが一つ。シーザーの夢。叶えられないと知って、あえてこんな手段に。
だから、仗助はジョセフの子であり、シーザーの子であり。
肉体的にはジョセフ。
精神的にはシーザー。
だから頑丈で優しくありながら、プッツンしたら残忍!冷酷!貧民時代精神テンション!に陥ってしまう。もうかっわいい〜
シーザーの分だとか思ってるから、余計大切。傷つけたくない。
だから自分の身を切ってまで、カッコつけたかった。マリオに一時期絶望していたシーザーみたいに、息子には自分に絶望して欲しくないから。

・・・っていう。
・・・ネタ。


終わり汗