2013/02/16

自由席その1

私が死んだ日、はじめて自分を知った。

可愛らしくショートに切り揃えられた髪の毛をふんわりと肩に乗せ、少女は赤リボンの黒いセーラー服を、くるりと廻り、なびかせた。目尻は垂れ下がり、ほんのりと紅色の唇はにこりともしない。彼女は椿の花に似ている。
ため息混じりのモノルージュ(もといモノローグ)を再度語り始めた。

知った自分が、今までは知ってた自分じゃなくてがっかりだったけど、本当の自分を知れて良かった。

少女は外にいるにも関わらず、雨にも濡れず、くる、くる、と廻っている。廻っている。廻っている。
少女は白黒の家の前にいる。平屋で大きく、だが門あとは庭に咲き誇る椿以外は白黒だ。だから白黒の家なのだが。
少女は廻るのをピタリとやめて、くるりと、と門内の人を見渡した。

一人、二人・・・あぁ、あの子は知らないなぁ

などと口を、ぱくぱく、とまるで喋っているかのように、動かす。細い喉は振動もせず、只々、唇の振り子のように。
すると、少女の前で見知った女が泣き出した。

ぁ、

声を上げたように、見上げる。真ん丸な瞳が、うるうる、と水気を含む。零れそうな水滴を留めるため、少女は口と目を両手で大きく塞いだ。
肩を上下に大きく震わせ、脚から力が抜けていき、崩れて叫ぶ。
只、声は出ず、只々、空虚へと消える。

せんせい、せんせい、おかあさん、「おかあさん、!」


はっ、少女は気が付いた。
ガタンガタ、身体を左右に揺らす車体は少し斜めに感じられた。外は夕方なのだろう。朱く燃え上がった日背後から暖かく、寝るのには心地がよい。乗車しているのは自分だけなのだろう。他の客は居ないみたいだ。
電車に乗っている。

だが、少女は、
いつから乗り始めた?
いつからここにいた?
いつから存在していた?

「こんばんわ、なにかお困りですか?」

新品の蒼い制服が際立って似合わない、愛想の良い青年が少年に声をかけた。右手には金属製の判子押し。左手は少女に差し出している。
返しの挨拶も送る前に青年は早々と仕事に励んだ。

「切符はちゃんとありますか?」

話の切り方が下手だった。