2012/09/12

ろく

コツン、 コツン。
足音が陶酔した三人の空間に響いた。外界との境界に躊躇なく切れ目を入れてきた人は、余りにも黒すぎて人—人間とは言えない異様な雰囲気を醸し出していた。
よくよく三人が冴え始めた視界で相手を観察する。

黒く、大きく跳ねた癖毛。
ほっそりとした体つき。
東洋人の顔立ち。
黒く濁った眼。
まさか—と、脳内に一人だけその外観に当てはまる人物が浮かんだ。—いや、まさか。
そんな間の間に、彼の黒いモノは歩みを止めた。

「やあ、」
右手に前方に曲げ掲げ、挨拶を交わす。

動揺を隠せない三人は一先ず同じように挨拶を返した。

「あ、あぁ。」
「あぁ。」
「うん、」
まあ、ぎこちない挨拶を。

すると、相手は同じ学生服のポケットから一本の細長い筒を取りだし、ジッポで火を点けた。一度深く息を吸い、長く吐いた。白い煙がぷかぷかと浮かぶ。

「ところて、君たち。」

一瞬三人に電気が走った。
やはり—真っ黒い東洋人で煙草を吹かしている一年生。アインツベルンの殺人機。モンストル・・・・
三人は血の気が引いた。
噂では、目を合わせただけでひどい目に会わせられるらしい。酷い、目。死を望む程、だそうだ。
青ざめた三人に、モンストルは近づいた。相変わらず黒い眼は死を写している。

「ここで何をしているんだい?」

バッ!!
三人は後先考える暇なく黒い彼と扉の隙間に疾走した。だが、たどり着いた扉のハンドルは固く閉ざされていて、頑丈な錠はびくともしない。い、いつの間に・・・?
焦る三人に対して余裕の表情で微笑む。

「僕さ、丁度新しい遊び相手が欲しかったんだよね。」
そう言い、後ろを振り返った。
「精々愉しませてね。」
泥の様に濁った瞳には、その狂喜に満ちた笑顔がとても良く似合っていた。







意識が起きて、耳に不快な音声が届いた。数分間の喘ぐ声のあと、小さく三種類の絞り悲鳴が聞こえた。恐る恐る体を起こしたら、同時に生々しい人体の壊れる音がした。自分のだと思ったが、頭以外の外傷は見つからない。
ただ、目の前を見上げたら地獄絵図が広がっていた。

「あ、バレたね。」

体がガタガタと震えた。
捻れた四肢、漏れる悲鳴、広がり続ける血溜。
そして、血痕の拭った後の手のひらをケイネスに差し出した。

「君も、こうなりたくなければ僕と約束をしろ。」

コクン、と一回深く頷く。
するとよしと言ってケイネスの腕を掴み上げる。半ば無理矢理立ち上げられた体は案の定ふらついた。それを黒いのが体で受け止めた。意外な温もりが伝わってくる。

「いち、この事を誰にも言うな。」
コクン、と言う旅に頷く。
「いち、言ったら殺す。僕も誰にも言わないからフェアだ。」
コクン。一瞬固まったが、頷いた。
「いち、僕のお友達になれ。」
コク・・・ うん?

にんまりと黒いのが笑う。

「今日から君の親友の切嗣だ。よろしく、ケイネス。」

聞き覚えのある名前。たしか、モンストル。あぁ、モンストル。まさかだった。
ケイネスはこの時初めて親友が出来た。