2012/11/20

衞宮切嗣の成功2

衞宮切嗣は先ず始めに奪還プランを立てた。
簡単な内容に反して、実際に遂行するのは困難なものだ。だが切嗣には容易なことだ。彼は魔術師殺しの異名を持っている。
要するに、一般の目から見たらチートだ。

ゴゴゴコココオオォォォ・・・
日本からフランス、そこからまたリビア。戦争の多い地へと行く。
理由は勿論。
戦争に混ざり、混沌と根絶を実行するためだ。

「エミヤ隊長、」
酒場で一人酒をしていたところに、一人の大男が背後から切嗣に話しかけた。
「なんだ、隊長なんか付けないでくれ。12年前のよしみだろう。」
気合いのよい顔付きに、懐かしんだ瞳。だが彼もまた死を視すぎている。眼は光も指さずに軟らかく微笑む。
「いいや、隊長は隊長だ。久し振りだな。本当に12年の歳月がたったかなんて人目では解らなかった。」
男はそのまま右手を切嗣の肩に回し、だみ声で笑って魅せた。
「そんな事を言って。君も相変わらずだな、ラファェロ作戦隊長さま」
「おいおい、オレなんかはお前みたいな細かい作戦なんて練れないからな!」
「そんなの期待してないよ、ラフ。」
息の合った二人の笑い声に釣られて、酒場の客たちが笑いに包まれる。近くの紛争で荒んだ空気に、暖かさが参り込んだ。

「ところで、呼んだ理由。」
ラファェロの切り替えに応じて、切嗣も真剣な表情になった。
「実はお願いがあってね。」
「出来ることだったら何だってやってやるさ!生き残りのよしみだしな!」
「ありがとう、ラフ・・・ 頼みなんだが、最後の戦地に僕達を雇った奴ら、覚えてる?」
切嗣はにこりと笑った。
「あ?あ、あぁ。だがあいつらが何かしてくれるとは・・・」
「大丈夫。連絡してくれないか?僕からでは絶対に取れないんだ。」
ラファェロは不思議そうな顔で承諾した。取れないのは、単に連絡先を忘れただけじゃ無さそうだ。だがラファェロは雇用者がどうなっても良いと考えた。自分には何にも非がない。
携帯で所望された場所まで呼び寄せる。
切嗣はやはり笑った。
「ありがとう、ラフ。この恩はどう返すべきか解らないよ!」
「なら酒を一杯奢ると良い!オレは酒が飲みたい!!」
だみ声と共にビールが2つ渡された。

酔いつぶれ間近までラファェロに飲ませ、深夜になったら切嗣は危ない街へと歩いていった。
指定されたのは今夜、満月の夜、12年前の戦地、人の亡くなったゴーストタウン、人の嘆いたあの丘。
アーサー王伝説のあの丘。
ヒースクリフに登る思いのように、切嗣の足は重苦しく進まなかった。愛娘の為、それだけに全身に力を入れた。
見えた丘の頂上に一つ人影が見えた。
単独なのは相当な自信家出なければならない。切嗣は歯がゆかった。ナメられている。
「やぁ、こんばんわ。君が私を呼んだのかね?」
こちらに気付いたらしく、両手を大きく広げ月明かりに全身を染めた。
紫の燕尾服に、赤黒いリボンとハット。
それはナメていないと云う証だった。
それは対戦時の正装だ。
—————魔術師にとっての。