2012/12/22

衞宮切嗣の成功5

純白の老人はその白く痩せている頬を撫で下ろしながら、蒼白じみている表情を落ち着かせた。老人の面身はもはやホムンクルスのように不健康に見える。
「はぁ・・・」
イリヤスフィールがアインツベルン城を後にして、かれこれ2日。
召し使いに、と連れて行かせた二人は昨晩無言で帰宅していた。イリヤスフィールの命令で返されたらしい。
「まったく・・・これから一人でなにができよう。」
アハト公はたった一人の孫娘の身を案じることしかできなかった。


一方。


母国より遠く離れた日本では、にこやかに朝を迎える一人の少女がいた。もちろぬ、その名は
「おはよう、イリヤ。」
無精で黒い男が、緩んだ寝巻き姿で洗面所から現れた。
「おはよう、切嗣!」
満面の笑顔を溢れさせながら、少女—イリヤスフィールは挨拶代わりに抱きついた。
「切嗣!今日はどこにいくの?」
きらきらと輝く瞳で黒い男に訪ねる。
「ふふ、 今日はね士郎と三人でお出掛けしょうか。」
にこり、と目尻に皺を寄せながら笑う。
「素敵!」
「あぁ、だから早く着替えてきておいで。士郎に追い越されちゃうよ。」
「うん」
少女は活気溢れた笑顔と共に去り、要り違いに同じ年齢の少年が気付かれずに入ってくる。ぼさぼさの赤髪を捲し立て、洗濯物の貯まった籠を手に取る。
「爺さん、遅い。朝飯なら出来てるから早く食べようぜ。」
「うん。」
少年は小言を溢しながら去って行く。
切嗣は呆然と立ったままだ。

「まったく・・・帰ってきたは良いけど、イリヤにでれでれじゃぁ、正義の味方っぽくないじゃないか・・・」
赤髪の少年は大きな溜め息と共に廊下を歩いた。
冷えきった12月の空気が小さな手を痛め付けながら、少年は外に赴き洗濯を手際よく済ませる。朝飯は先程作り終わった。簡単に味噌汁とご飯と焼き魚だ。
「・・・ぁ 箸使えるかな。」
少年—衞宮士郎に気がかりなことが一つ出来た。
洗濯物を星終えた士郎は、大きな籠を持ち上げ、三人分の量を改めて眺める。
いままでにない、少年にとっては大量の洋服だった。
「しーろぉ!」
背後から名前を呼ぶ声がした。なんだ、と振り返ると、真っ白い少女が自分に向かい走ってきている。
「イリヤ、」
「はやく朝ごはんたべよ〜」
「・・・うん。」
手に握っていた洗濯物を急いで干し、空になった籠を片手に、イリヤの手を片手に、居間へと急いだ。